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東京高等裁判所 平成2年(う)619号 判決 1992年1月13日

主文

原判決を破棄する。

被告人Aを懲役二年四月に、同B、同C、同D、同E、同F、同Gをいずれも懲役二年六月にそれぞれ処する。

原審における未決勾留日数中いずれも五〇〇日を被告人らの右各刑に算入する。

ただし、本裁判確定の日からいずれも五年間右各刑の執行を猶予する。

原審及び当審における訴訟費用中、別紙訴訟費用負担一覧表記載の各証人に支給した分は、同表記載のとおり各被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人大口昭彦、同萩谷雅和、同遠藤憲一連名の控訴趣意書、控訴趣意書補充書(一)、同(二)、同(三)及び弁護人桒原康雄作成の控訴趣意書並びに被告人A、同C、同D、同E、同F、同G各作成の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官中尾勇作成の答弁書(ただし、当審第一回公判期日において、検察官は、右答弁書中に「凶器準備集合」とあるのを「兇器準備集合」とそれぞれ訂正し、一五頁のはじめから七行目の「・・・首肯できるのである」の次に「なお弁護人が控訴趣意書補充書(三)において引用しているいわゆる一〇・二〇事件と比較しても、原判決の量刑が重過ぎて不当であるとは到底いえない。」と付加して陳述した。)にそれぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用する。

第一  原判決の「罪となるべき事実」のうち第一事実(以下「原判示第一事実」のように表示する。)に関する主張(弁護人桒原康雄作成の控訴趣意書)について

所論は、要するに、原判決は原判示第一事実において、被告人B(旧姓「K」以下同じ)が自動車運転免許の更新申請をなすに当たり、熊本県警察本部交通部運転免許課の係員に自己の住所につき虚偽の申立をし、情を知らない右係員をして、被告人に対する自動車運転免許証に不実の記載をさせた旨の事実を認定し、被告人につき免状等不実記載罪の成立を認め、「弁護人らの法律上の主張に対する判断」(以下「原判決の判断」という。)の一において、(1) 弁護人の公訴権濫用による公訴棄却の主張を排斥しているが、本件は違法な差別による裁量権を著しく逸脱した起訴としか評し得ないもので、公訴権の濫用として公訴棄却の判決がなされるべきであるのに、これをしなかった原判決には不当に公訴を受理した違法がある。また、原判決は、(2) ア「運転免許証の記載事項としての住所欄は、本籍地、氏名欄とともに免許を受けた者を特定する上で必要であるとともに、住所地の管轄公安委員会が行う運転免許証の更新、取消停止処分等の手続においても必要不可欠であり、そこで、道路交通法においても・・・・届け出る義務があるとともに、その違反に対し罰則が設けられている」として、住所欄が運転免許証の記載事項として重要な部分であり、免状等不実記載罪の客体になると説示しているが、運転免許証の住所は重要性を持つ事実とはいえないから、これを偽ったからといって刑法一五七条二項所定の不実記載ということはできず、被告人の所為は右構成要件に該当しないものである。また、原判決は、「更新の際に交付される免許証であっても、その内容の真実が害された場合に公の信用が害される点は、免許取得の際に交付される免許証の場合と何ら変わるところはない」ことを理由として、被告人の所為が免状等不実記載罪の実質的違法性を有することは明らかであると説示しているが、運転免許証の更新は、単に免許証の有効期間を延長するに過ぎないものであるから、更新後の免許証は、法的にみれば、期間の点を除きそれ以前の免許証と同一のものということができること、被告人の所為は、仮に、現行法上免許証の更新の際既存の免許証に新たに有効期間を記入するという方法がとられているならば、道路交通法一二一条一項九号違反となるに過ぎず、免状等不実記載罪と道路交通法一二一条一項九号の法定刑には著しい差があって、実質的違法性の程度も異なっていること等からみると、運転免許証の更新時に、既に居住していない住民票上の住所を申請したという被告人の所為が、免状不実記載罪の予想する実質的違法性をもつものでないことは明らかである。さらに、原判決は、イ被告人は、本件申請当時に本件住所欄記載の住所に居住しておらず、そのころは熊本市内の知人のY方に居候して居住し、そこを生活の本拠としていたと認定説示しているが、被告人はこの間無住所の状態にあったものであるから、右は判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認であり、原判決が右の事実を前提として、同被告人の本件犯行の違法性は無視できず、また、当時同被告人がYを住所として申請することが可能であったことに徴すれば、同被告人の行為が可罰的違法性を欠くものでないことは明らかであり、他に採るべき方途がなかったとは到底いえないとそれぞれ説示している点は誤りであって、原判決には、これらの諸点において判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認及び法令適用の誤りがある、というのである。

しかし、原審訴訟記録によれば、原判決が本件公訴を棄却しなかったことについて所論主張の違法はなく、また、原判決挙示の関係証拠によれば、原判示第一事実の認定判示及び原判決の判断における右指摘の諸点に関する認定説示に所論のような事実誤認、法令適用の誤りは認められない。

すなわち、所論(1)の点については、原判決が、原判決の判断一において、検察官の訴追裁量権の逸脱が公訴の提起を無効ならしめる場合があり得るとしても、それは公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られるべきであって、本件の公訴提起がかかる場合に当たるものとは到底認められないとしている点は、当裁判所も正当として肯認することができるから、原判決に原判示第一事実について不法に公訴を受理した違法があるものとは認められない。

次に、所論(2)のアの点については、原判決が、原判決の判断一において、首肯できる根拠を挙げて、①運転免許証の住所欄が運転免許証の記載事項として重要な部分であり、免状等不実記載罪の客体となることは明らかであること、及び②更新の際交付される免許証であっても、虚偽の申立に基づいて住所欄に不実の記載をなさしめた被告人の所為が刑法一五七条二項の構成要件に該当し、かつ、その予想する実質的違法性を有することは明らかである旨説示している点は、当裁判所も正当として肯認することができる。所論は、①の点について、仮に、原判決が説示するとおり、免許を受けた者を特定するために住所が必要であるとすれば、運転免許証以外の免状等についても住所を記載要件とせざるを得ないはずであるのに、運転免許証以外の免状あるいは技能証明書(以下「免状等」という。)において、住所を要件とせず、氏名・生年月日・本籍のみを記載要件としているものは極めて多数に上っていることからすると、全法的には、免状等における住所を、対象者の特定のために必要としないという立場がとられていることを示しており、原判示の理由は到底成り立ち得ないと主張している。

しかし、道路交通法九三条一項四号は、免許証の記載事項の一つとして、「免許を受けた者の本籍、住所、氏名及び生年月日」と、また、道路交通法九四条一項は、「前条第一項に規定する免許証の記載事項に変更を生じたときは、すみやかに住所地を管轄する公安委員会(中略)に届け出て、免許証に変更に係る事項の記載を受けなければならない。」とそれぞれ規定して、届け出るべき事項が同法九三条一項各号のうちの総てに及ぶことを定め、同法一二一条一項九号において、右の届出の懈惹に罰則をもって臨んでいることからすると、同法が免許証の証明対象である右九三条一項各号の各記載事項間に特に差等を設けていないことは、右規定の体裁上も明らかである上、住所が本籍、氏名、生年月日と並んで、それ自体個人特定の重要な資料となり得ることは自明のことであって、所論のように、住所に行政事務の能率的遂行という機能のみを期待する見解は甚だ狭きに失するものであり、運転免許証の記載事項としての住所欄は、住所地の管轄公安委員会が行う運転免許証の更新、取消、停止処分等の手続においても不可欠であるのは、住所が個人を特定する上で有用な機能を有することから生ずる副次的機能に過ぎないから、所論の立論は本末を転倒したものといわざるを得ないこと、また、所論が掲げる航空技能者技能証明書、海技免状、医師免許証、歯科医師免許証、薬剤師免許証、診療放射線技師免許証、保健婦、助産婦、看護婦、准看護婦免許証、無線従事者免許証及び火薬類製造保安責任者免状に、免許を受けた者の住所が記載されていないことは所論のとおりであるが、これは、これら免許証等について規定する各種法律と、道路交通法との目的、機能がそれぞれ異なるところに起因するものと思料されるのであり、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする道路交通法においては、運転免許は要式行為であって、運転免許証の交付をもって運転免許の効力発生の要件としており(道路交通法九二条一項)、自動車の運転に当たっては常時その携帯が要求され、罰則をもってこれが強制されてもおり(道路交通法九五条一項、一二一条一項一〇号)、自動車運転者は、一定の要件のもとに、警察官から免許証の提示を求められたときは、これを提示する義務がある(同法九五条二項、六七条一項)とされているのであるから、これに対応して、運転免許証の個人特定に関する事項に本籍、氏名、生年月日と並んで住所を加えたものと解することができる。したがって、所論指摘の免状等に住所の記載がないからといって、運転免許証の住所の記載が免許証の証明対象ではなく、免状等不実記載罪の「不実の記載」には含まれず、刑法一五七条二項の構成要件に該当しないとすることは到底できない。次に、所論は、右②の点について、運転免許証の更新とは、同一内容をもつ新たな免許を与える行政処分をなすという趣旨ではなく、単に有効期間を延長するものであるに過ぎないこと等を根拠として、仮に、住所が不実記載の対象となるとしても、右は道路交通法一二一条一項九号程度の違法性を具有するに過ぎず、したがって、免状等不実記載罪の予想する実質的違法性を持つものではないと主張するもののようであるが、免許証の更新の法律的性質は所論のとおりであるとしても、道路交通法施行規則二九条三項によれば、更新時に新たな免許証が交付されることになっており、その際、ことさらに現に居住しない住民票上の住所を記載して更新の申請をし、新たに交付される運転免許証の住所欄に不実の記載をさせた場合は、住所の有する個人特定の機能を阻害し、ひいて新たに交付された運転免許証に対する公共の信用を害することは、免許取得の場合と何ら異なるところはないから、右所為は、刑法一五七条二項に該当し、同罪の予想する実質的違法性を有することになるのであり、このことは、交付にかかる運転免許証の記載につき、道路交通法九四条一項に基づき変更の記載を受ける際に、同様の偽りの申請をして不実の記載をさせた場合、本罪が成立することによっても明らかなところである。右によれば、運転免許証の更新時における免状等不実記載罪が、同罪の本来予想する実質的違法性をもつものではないということはできない。

さらに、所論(2)のイの点については、原判決挙示の関係証拠によれば、原判決が、原判示第一の事実において、被告人Bが、本件更新申請をなすに当たり、その住所欄にそれが自己の住所ではないのに、「熊本市T町Z152〜190APD」と虚偽の記載をした旨認定判示し、また、原判決の判断一において、同被告人が、本件申請当時に右住所欄記載の住所に居住しておらず、そのころは熊本市内の知人のY方に居候して居住し、そこを生活の本拠としていた旨認定説示したことは、当裁判所としても正当として肯認することができる。すなわち、右各証拠の外原審において取り調べた<証拠略>によれば、同被告人は、原判示の熊本市T町Z一五二番地の一九〇アパートD室(二〇二号室)に居住していたところ、昭和六〇年七月下旬同所を引き払って千葉県成田市三里塚に授農に行き、同年一二月ころ福岡県小倉市の実家にいったん立ち戻ったが、間もなく熊本市に赴き、翌六一年一月末ころから同年一〇月ころまでの間、熊本市K四丁目二一の二所在の知人Y方に身を寄せ、アルバイト先を探す傍ら、Yの妻が重度の身体障害を有していたため、同女や幼児の世話を手伝ったりして、Y夫妻及びその子供と四人で生活をともにしていたことを認めることができる。もっとも同被告人は、前記T町Zの住所を立ち退く際、その家財道具一式を当時在籍していた熊本大学の部落開放研究会の部屋に持ち込んで、同所に保管していたことが認められるが、同被告人のY方における居住状況に照らし、右事実があるからといって同被告人が当時無住所の状態であったとは到底いうことができず、右事実は前記認定を覆すものではない。そして右によれば、原判決が、原判決の判断一において、本件犯行の違法性は無視できないところであり、不正な行為を行う意図を有していなかったからといって、可罰的違法性を欠くものでないことは明らかである旨、また、右のとおりY方を住所として申請することが可能であったことに徴すると、被告人に期待可能性がなかったとは到底いえない旨説示しているところは、当裁判所においても正当として肯認することができる。

以上によれば、原判示第一事実に関する所論は総て失当であり、論旨はいずれも理由がない。

第二  原判示第二の1、2、3及び同第三の1、2、3(別紙受傷者一覧表記載の事実を含む。)(以下「原判示第二、第三の事実」と総称する。)に関する主張(弁護人大口昭彦、同萩谷雅和、同遠藤憲一連名の控訴趣意書、控訴趣意書補充書(一)、同(二)、同(三)及び被告人A、同C、同D、同E、同F、同G各作成の控訴趣意書)について

一  不法に公訴を受理したとの主張(弁護人ら連名の控訴趣意書第二章の一)について

所論は、要するに、(1) 原判示第二及び同第三の各事実に関する検察官の公訴提起は、検察官による公訴権濫用の一類型としての悪意かつ不平等の起訴、すなわち、反対同盟農民から土地を強奪するため、反対同盟農民等とともに土地強奪に抵抗して闘おうとしている被告人らの、いわゆる成田空港反対運動を弾圧しようとする悪意に基づく起訴であり、かつ、本件起訴の端緒とされているのは、昭和六二年一一月一六日の「投石」事件なるものであって、右「投石事件」は捏造されたものであるが、仮に存在したとしても、同様の投石事件は、千葉県警の警察官の手によって木の根砦付近で頻発しているところ、警察官の投石事件について捜査がなされたことはなく、その所属する官署に対して捜索がなされたこともないから、本件の投石事件について砦の捜索を行い、これに対する公務執行妨害等の罪名で被告人らを起訴したことは甚だしく不平等な起訴であって、右は刑訴法二四八条に違反する違法な起訴ということができるから、同法三三八条四号により公訴を棄却すべき場合であり、また、(2) 本件捜査過程において、被告人らに対し、逮捕時における均衡を失する実力行使や、逮捕後における機動隊員による暴行、受傷被告人に対する治療妨害及び転向強要が行われたから、本件は憲法一三条、三一条、刑訴法二四七条に違反する違法捜査に基づく起訴ということができ、刑訴法三三八条一号により公訴を棄却すべき場合であったのに、原判決はこれをなさず不法に公訴を受理したものであるから、刑訴法三七八条二号により破棄さるべきである、というのである。

よって検討すると、原判決挙示の関係各証拠によれば、原判決が、原判決の判断二において、①ないし⑦の事実を含め本件の経緯及び状況等につき認定説示しているところは、総て正当として肯認することができる。ところで、右の事実によれば、本件は、これに先立つ昭和六二年一一月一六日に、新東京国際空港公団(以下「空港公団」という。)が千葉県成田市木の根字東台二一五番地所在のいわゆる木の根団結砦(以下「木の根砦」という。)付近において、空港公団用地を囲い込む工事等に対する違法行為の規制、検挙等の任務に従事中の千葉県警察本部警備部第二機動隊所属の警察官らに対し、同砦の櫓上から、青色ヘルメットを被った三、四名の者が、約一時間半にわたり、投石用のパチンコ器具を使用するなどして多数の石塊、ボトル等を投擲し、右警察官らの職務の執行を妨害する事件が発生したため、右犯人特定等の捜査を遂げるべく、千葉県警察本部警備部警備第二課所属の宮崎正警部は、翌一七日千葉地方裁判所裁判官から、右事犯の捜査の目的を達成するのに必要な限度における、同砦及び在所の者等に対する捜索差押許可状の発付を得たが、同年三月に行われたS全学連委員長の木の根砦の死守防衛に関する宣言及び本件当時木の根砦自体にも機動隊等の立入りを拒否しこれに対し砦を死守する旨の看板が掲げられていたことから、右捜索差押に対し砦内の櫓等から激しい抵抗があることが予想されたため、予め多数の機動隊員を配備した上、高所の捜索差押に用いるクレーン車及び箱型のゴンドラ、その他放水車、ガス筒発射器などの準備を整え、同月二四日早朝、右宮崎警部以下約二〇名の捜索差押の実施班員らが、同警備部第二機動隊長の池田茂以下多数の警察官を、右捜索差押の警備、その際発生する違法行為の規制、検挙及び妨害排除等のため出動させ、又は周辺付近に待機させた上、同日午前七時二分ころから同砦の付近で拡声器により、前記一一月一六日の投石による兇準公妨事件で砦内を捜索するから門扉を解放するよう繰り返し通告したが、被告人らはこれに従わず、右直後ころ同砦内から投石があったため、警察官らは、やむなくエンジンカッターを用いて門扉を切断する作業に取りかかったこと、すると、間もなく砦内の櫓上から火炎びんの投擲が始まり、午前七時一〇分ころには火炎びんが右作業中の機動隊員の楯に当たり、警察官二名(別紙受傷者一覧表1、2)が加療約一か月及び約一週間の傷害を負ったことから、これらの妨害を排除しないと捜索差押の目的を達し難いので、まず右投擲行為を行っている者らを兇器準備集合・公務執行妨害・火災びんの使用等の処罰に関する法律違反の嫌疑で逮捕することにし、午前七時一四分ころその旨通告して現行犯逮捕に着手したこと、そして、逮捕に当たる警察官らを砦内に入れるため、クレーン車で砦の北西側トタン塀を壊し、逮捕活動の障害となる古タイヤ等を除去している間に、警察官一名(別紙受傷者一覧表番号3)が投石により加療約三週間の傷害を負い、また、砦中央にある通称五番櫓上から消化器を改造した火炎放射器や火炎びんなどを投擲していた者らを逮捕中、同日午後零時過ぎころまでの間に警察官八名(別紙受傷者一覧表番号4ないし11)が、石塊等及び火炎びんの投擲等により、次々に加療約一週間ないし三週間の傷害を負うに至ったため、引き続き警察官による逮捕活動を行うことを中止せざるを得なくなり、方針を変えて、犯人の乗っている櫓等を倒してこれを逮捕することにし、クレーン車に取り付けた鉄製ゴンドラを右五番櫓と渡り廊下で連絡している三番櫓にぶつけて同櫓を取り壊し、さらに、同日午後二時ころ現場に到着したバックホーを用いて五番櫓の手すり部分の一部を取り外したが、この間において、さらに二名の警察官(別紙受傷者一覧表番号12、13)が、石塊等の投擲により加療約一か月及び全治約一〇日間の傷害を負ったこと、同日夕刻に至り、夜間活動は危険を伴うため警察活動を中止して被告人らを監視するに止めたこと、翌二五日には、大型クレーンやバックホーを用いて五番櫓の手すり部分や同櫓上の小屋を取り壊した外、午後零時過ぎには、大型クレーンにゴンドラを取り付けて、被告人A(旧姓「T」以下同じ)及び同Bの立てこもる同砦南方二番櫓に引っ掛けて、右被告人らもろとも引き倒し、午後零時三九分ころ被告人Aを逮捕したが、被告人Bは北隣の五番櫓に逃げ込んだこと、その後同日午後四時ころまでの間に、バックホーを用いて五番櫓及び右櫓下のプレハブ二階建の建物等を少しずつ払い落す形で取り壊していったところ、その間に被告人Bが逮捕され、五番櫓に立てこもっていた被告人E、同F、同Gの三名は、同櫓の南東直近に位置する四番櫓に移動して、当初からこれに立てこもっていた被告人Dと合流し、さらに抵抗の気勢を示したこと、この時点においては、右四番櫓の外、同砦内の西側でいわゆる旧櫓と称される同砦で最大の六番櫓に被告人Cが立てこもって機動隊と対峙していたこと、その後、同日夕刻までに若干整地作業を行い、午後五時前に作業を中断したこと、翌二六日は、被告人らを逮捕するため、櫓を倒す際の衝撃を緩和すべく、櫓付近に盛土をするなどし、一方、四番櫓に立てこもった右被告人らは、火炎びんや石塊の投擲を繰り返していたが、同日午後一時三七分ころ、被告人Cが右盛土の上に飛び降りて逮捕されると、四番櫓の被告人D、同E、同F及び同Gの四名も一斉に右櫓から降りてきて、午後一時五九分ころまでに全員逮捕されたこと、以上の経過であったことが認められる。

所論は、(1) 本件は悪意の起訴であり、かつ、投石事件が仮に存在したとしても甚だしく不平等な起訴であるから公訴を棄却すべきであったと主張している。しかし、前記のとおり本件は前記投石事件の捜査の過程において生じた事件であって、その経過については、前記のとおり誠にやむをえないものがあり、警察側が成田空港反対運動を弾圧する意図で、ことさら必要がないのに木の根砦の捜索差押を行い、被告人らを挑発して本件に至らしめたものとは認められない(なお、所論は、右投石事件は捏造されたものであるとも主張しているが、被告人らの原審公判廷における各供述によっても、右事件が虚構の捏造されたものであるとは認められず、また、右事件の際警備に当たっていた宮崎正、池田茂ら検察官側の証人は、原審公判廷において、いずれも右事件が現実に発生した旨詳細かつ具体的に供述しており、弁護人側の詳細な反対尋問に対しても十分耐え得ており信用性が認められること、及び前記宮崎警部は、千葉地方裁判所の裁判官に必要かつ十分な疎明をした上、即日捜索差押令状の発付を得ていることなどに徴すると、右事件は、警察側により捏造されたなどというものではなく、現実に発生した事件であることに疑いの余地はない。)。また、所論は、仮に右事件が捏造されたものでないとしても、同様の投石事件は千葉県警の警察官の手によって、木の根砦付近で頻発しているところ、右につき捜査や捜索がなされたこともないから、本件起訴は甚だしく不平等な起訴であると主張しているところ、この点については、被告人C、同Eが原審公判廷において所論同旨の供述をしているが、極めて概括的で日時等の特定もなく、他にこれを裏付ける確たる証拠はないから、右被告人らの供述の信用性については疑いがない訳ではない上、仮にこれが真実であったとしても、右一一月一六日の事件を発端として本件に至った経過、本件の罪質、態様、結果等に照らし、被告人らに対する本件公訴の提起が、刑訴法二四八条に違反する違法なものであるということは到底できない。

次に、所論は、(2) 本件は、憲法一三条、三一条、刑訴法二四七条に違反する違法捜査に基づく起訴であるから、刑訴法三三八条一号により公訴を棄却すべきであったと主張している。しかし、この点については、逮捕時の実力行使、逮捕後における機動隊による暴行、受傷被告人らに対する治療妨害及び被告人らに対する転向強要等の所論指摘の諸点について、原審公判廷における被告人らの各供述を子細に検討してみても、本件各公訴の提起を無効にするような違憲・違法の廉は見当たらないから、原判決が、原判決の判断二の(四)において、「本件における警察官の行動につき違法捜査があったとしても、弁護人主張の如くに国家の裁判権を否定すべき謂われはなく、これを訴追裁量逸脱の問題として検討してみても、弁護人が指摘し、また、被告人らの供述するところは、その言うところ自体、いずれも公訴提起の効力そのものを無効にするような違憲・違法なものとは認められない。」と説示している点は当裁判所においても正当として是認することができるのであって、右主張も採用するに由ないものである。

以上のとおりであって、所論は総て失当であり、原判決に不法に公訴を受理した違法があるとは認められないから、論旨は理由がない。

二〜五<略>

六 量刑不当の主張(弁護人ら連名の控訴趣意書第三章の五及び控訴趣意書補充書(三))について

所論は、要するに、被告人らに対し、懲役二年四月ないし二年六月の実刑をもって臨んだ原判決の量刑は、同種事件の量刑と比較して不当に重く、破棄を免れないというのである。

そこで、原裁判所が取り調べた証拠を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて考察すると、本件は、1 被告人Bが、自動車運転免許の更新申請に際し、申請書の住所欄に虚偽の住所を記載し、情を知らない係員をして右免許証にその旨不実の記載をさせた、2 被告人らは共同して、原判示第二の1、2、3記載の日時場所において、木の根砦における捜索差押及びその警備並びにこれらに対する違法行為の規制、検挙等の任務に従事中の警察官多数に対し危害を加える目的をもって、多数の火炎びん、石塊、消化器を改造した火炎放射器及びパチンコ型投石器などの兇器を準備して集合した、3 被告人らは共謀の上、原判示第三の1、2、3記載の日時場所において、前記任務に従事中の警察官多数に対し、多数の火炎びん・石塊等を投擲し、あるいは火炎放射器を噴射させるなどの暴行を加え、火炎びんを使用して多数の警察官の生命、身体に危険を生じさせるとともに、右警察官らの職務の執行を妨害し、右暴行により、原判示別紙受傷者一覧表記載のとおり、警察官一三名に各傷害を負わせたというものであるところ、原判示第二、第三の犯行の発端は、すでに前段において説示したとおり、裁判所の発した捜索差押令状の執行に対し、火炎びん等を投擲して攻撃を仕掛けた被告人らの法無視の態度にあることが明らかであること、原判示第二の兇器準備集合罪の犯行態様は、その兇器の種類、数量の点において多様かつ大量であり、触発式火炎びん、火炎びん発射器、消化器を改造し最大射程七メートルに及ぶ火災放射器、パチンコ型投石器等の強力な兇器をはじめ、鶏卵大から手掌大にも及ぶ多数の砕石、寸断した鉄パイプ、乾電池等を、砦内の高さ七〜八メートル以上の数基の櫓上にあらかじめ多数分散配置して準備するなど、極めて計画的で周到な犯行である上、兇器の種類、性能の面において人身殺傷の危険性が甚だ高く、危険なものがあること、また、原判示第三の犯行については、被告人らは右各兇器を使用し、被告人らを逮捕しようとする警察官らに対し、高所から執拗、かつ容赦のない攻撃を加えて公務の執行を妨害したものであって、犯行態様は、極めて悪質かつ危険といわなければならず、右暴行により、捜索開始直後の同日午前七時一〇分ころから午後二時四二分ころまでの間に、右公務に従事中の警察官一三名に対し、原判示のとおり、加療約一か月ないし約一週間に達する主として顔面等の熱傷及び身体各部の打撲傷、挫傷、骨折等の傷害を負わせたもので、発生した結果もかなり重いもでのあること、被告人らは、新東京国際空港問題に関心を抱き、しばしば千葉県成田市の現地に赴き又は同地に常駐するなどして、被告人らを支持する現地農民とともに、同空港二期工事反対闘争に深く関わっている者らであるが、各被告人の犯行態様については、前記のとおりであって、各被告人間において、犯行に現実に関わった時間にそれぞれ差等があるものの、被告人らの攻撃により警察官らが受傷したのは、捜索開始直後の同日午前七時一〇分ころから午後二時四二分ころまでの間で、その後は負傷者が出ておらず、また、警察官らの被った傷害が、どの被告人の所為によるものであるかについては、本件訴訟記録上これを確定することができないから、これらの点は被告人ら間の刑責の軽重に殆ど影響を与えるものではないこと、被告人Bの原判示第一の犯行は、格別他の違法行為の準備としてこれを行ったものとは認められず、所論のように起訴価値のない事件であるということはできないが、その罪質、動機、犯行態様からみて、原判示第二、第三の犯行に比し軽微な事件であること、その他原判示第二、第三の犯行が広く報道されたことによる社会的影響、及び被告人らに反省の情が認められないこと、などの諸点を考慮すると、被告人らの刑責はかなり重いといわなければならず、したがって、原判決が説示している、被告人らが長期間勾留されていること、木の根砦における本件犯行が地域住民に危険を及ぼす虞れは皆無に近かったことなどの、被告人らにとって有利な情状を併せて考えてみても、被告人Aを懲役二年四月に、同B、同C、同D、同E、同F、同Gをいずれも懲役二年六月の刑に各処した原判決の量刑は、その刑期の点においては、十分首肯するに足るものがあると認められる。

しかし、所論にかんがみさらに検討すると、被告人Cは、犯行当時被告人らのなかでは三四歳の最年長で、かつこの種運動歴が最も長く、昭和五五年中に住居侵入、威力業務妨害の罪で罰金刑に処せられた前科の外、昭和五三年から同五六年までの間に、住居侵入、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、公務執行妨害等の罪により三回逮捕された前歴があり、その余の被告人らについては、被告人Bが昭和六〇年に公務執行妨害罪により一回逮捕された前歴を有するのみで、その他の被告人らには前科、前歴が全くなく、とくに被告人Aは犯行当時二二歳で最も年齢が若かったこと、当審において取り調べた検察官請求にかかる判決書謄本二通(昭和五九年四月七日付、同五八年七月二一日付)及び弁護人ら請求にかかる判決書謄本一通(平成二年一月一二日付)によれば、千葉地方裁判所においては、(1) 昭和五八年七月二一日、被告人一九名に及ぶ航空法違反、兇器準備集合、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、公務執行妨害、傷害(ただし、うち四名については更に各殺人未遂)事件につき、被告人らを、それぞれ懲役三年ないし懲役二年(なお、全被告人につき罰金二万円をそれぞれ併科)に処した上、各懲役刑について、殺人未遂の罪名で起訴された者のうち二名に五年間、その余の一七名につき四年間、それぞれ刑の執行を猶予したが、右事案は、ア被告人ら一九名が、昭和五三年三月二五日正午ころから二六日夜にかけて、新東京国際空港の滑走路の進入表面から一〇数メートル突出する鉄塔をいわゆる横堀要塞上に設置したという航空法違反、イ同月二五日午前中から同月二七日夕刻までの間に、要塞内に鉄パイプ製大型パチンコ、洋弓、小型パチンコ、鉄製の矢、火炎びん、コンクリートブロック、鉄筋片等の兇器多数を準備して集合したという兇器準備集合、ウ同月二五日夜から同月夕刻ころまでの間、被告人らの逮捕、同要塞の捜索差押等の任務に従事中の警察官多数に対し、前記各兇器を用いて攻撃し、その際警察官六名に加療約七日ないし一四日間の傷害を負わせたという火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、公務執行妨害、傷害及び被告人らのうち四名が共謀の上、同月二七日夜、同要塞鉄塔上で前記警察官らに火炎びんを投げつけ、洋弓で矢を射かけ、鉄パイプ等で頭部を殴打するなどし、とりわけうち二名の者が未必の殺意をもって、警察官三名に一〇キログラムに近いコンクリートブロック数個を投げつけたが未遂に終わったものの、その際、警察官六名に対し、加療七日ないし一四日間の傷害を負わせたという火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、公務執行妨害、傷害の各事実に関するものであって、これを本件と比較すると、いずれも砦に立てこもった上での攻撃で、その罪名および犯行態様に共通するものがあるが、とくに、エの四名の者については、警察官に負わせた傷害の程度はやや軽いものの、被害警察官の数はほぼ同数であり、殺人未遂を含むこと、全体として兇器の種類が本件より多様で危険性の程度も大きいと考えられること、航空法違反の事実を含むこと等の諸点において、本件よりその犯情は悪質と認められるのに、総て刑の執行を猶予していること、また、(2) 昭和五九年二月一五日、被告人三五名に及ぶ各兇器準備集合、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、公務執行妨害、傷害、被告人三名に対する航空法違反(うち二名の被告人については同罪のみ)事件につき、右全罪名に触れる被告人一名を懲役二年六月及び罰金二万円に、航空法違反のみの被告人二名を各罰金二万円に、その余の三〇名の被告人らを、懲役二年ないし同一年六月にもそれぞれ処した上、各懲役刑について、いずれも四年間刑の執行を猶予したが、右事案は、ア被告人らのうち三名が昭和五三年二月四日及び五日の両日、前記横堀要塞上に高さ約二〇メートルの鉄塔を設置したという航空法違反、イ右被告人のうち二名を除くその余の被告人三三名が他と共謀の上、被告人三二名において、同月六日早朝から午後一〇時半ころまでの間(うち四名の被告人においてはさらに翌七日夜までの間)、右要塞において火炎びん、石塊、鉄パイプなどの兇器を準備して集合したという兇器準備集合、及び右日時場所において、同要塞の検証、捜索差押及びその警備等の任務に従事中の警察官多数に対し、前記各兇器を用いて攻撃し、その際、一二名の警察官に対し(なお、前記四名の被告人においてはさらに一名の警察官に対し)、全治七日ないし二か月の各傷害(全治二か月の傷害については、左前頭頭蓋骨骨折を含む)を負わせたという、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、公務執行妨害、傷害の各事実に関するものであって、これを本件と比較すると、その罪名、犯行態様において共通するものがあって、被害警察官の数も同数である上、傷害の程度は本件よりかなり重く、その犯情は悪質であるのに、懲役刑に処せられた被告人全員について、総て刑の執行を猶予していること、さらに、(3) 平成元年一〇月二四日、被告人一九名中、一五名に対する兇器準備集合、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、公務執行妨害、傷害及び被告人三名に対する兇器準備集合、公務執行妨害、傷害並びに被告人一名に対する兇器準備集合事件につき、右兇器準備集合一罪の一名を懲役一年六月に、右兇器準備集合、公務執行妨害、傷害罪の三名を懲役二年六月に、その余の被告人ら一五名のうち、四名を懲役二年一〇月に、その余の被告人一一名を懲役三年にそれぞれ処した上、懲役一年六月の被告人につき四年間、その余の被告人らにつき五年間、それぞれ刑の執行を猶予したが、右は、被告人らが、昭和六〇年一〇月二〇日、千葉県成田市の公園で二期工事阻止等のスローガンを掲げて開催した全国決起集会にうち一名を除いて参加したところ、ア右一名は他と共謀の上、同日夕刻、右公園付近路上で多数の火炎びん、鉄パイプ、角材、竹竿、石塊などの兇器を準備して集合し、被告人らのうち三名は、そのころ同所付近で、丸太、棍棒の外右同様の兇器を準備して集合し、その余の被告人一五名は、そのころ同所付近で、右同様の兇器を準備して集合し、イ右被告人中三名は、そのころ、同所付近の三里塚十字路交差点等において、違法行為の制止、検挙などの任務に従事中の多数の警察官らに対し、丸太を抱えて突き当たり、鉄パイプ、角材、竹竿、棍棒などで突き、殴打し、多数の石塊など投げ、警察官二三名に対し、加療四週間ないし六か月間の傷害を負わせ、ウ他の被告人三名は、そのころ同所付近で右のほか多数の火炎びんを使用するなどして、警察官二五名(右二三名を含む。)に前同様の傷害を負わせ、エその余の被告人中一二名は、そのころ同所付近で、警察官らに対し右ウ同様の犯行に及んだという事案であって、アについては兇器準備集合、イについては、公務執行妨害、傷害、ウ、エについては、ともに火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反、公務執行妨害、傷害の罪に当たるとされているところ、これを本件と比較すると、公道上の攻撃と砦に立てこもった上での攻撃という差異は認められるが、兇器の種類、数量等の点において類似したものがあり、いずれも、警察官に対する公務執行妨害、傷害の事実を含む外、とくに、ウ、エにおいては、火炎びんの使用を含む点で類似したものがあるが、その攻撃の態様は極めて激しいもので、負傷警察官の数及び警察官らが被った傷害の程度の点において、右事案は本件より格段に被害が重いと認められるのに、総て刑の執行を猶予していること、以上の事実を認めることができる。もとより刑の量定は、具体的事件により千差万別であり、また、その際考慮すべき事項は多岐にわたるから、所論の主張するような同種事件との比較のみでただちに決せられるものでないが、本件を含むこれら事件は、概ね同一の動機による警察官らに対する攻撃に起因する外、被告人らの年齢が若く、学業半ばで前科等に乏しい者が多いこと等をはじめ、その罪質、犯行態様、被害結果等の点で類似するものが多く、ことに、集団公安事件としての特質から、被告人らの個別的情状につき精密に認定することが困難であることも加わり、各般の情状に関する事実が類型化され、酷似している分野の一つと考えられる。したがって、被告人らについて認められる前記の情状に、右同種事件の量刑の傾向などを併せて考慮するときは、被告人らに対しそれぞれ前記各実刑をもって臨んだ原判決の量刑は、刑の執行を猶予しなかった点において重きに過ぎて不当であると認められるから、論旨は結局理由があり、原判決は破棄を免れない。

よって、刑訴法三九七条一項により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により被告事件につきさらに判決する。

原判決が適法に認定した罪となるべき事実に法令を適用すると、被告人Bの判示第一の所為は、行為時においては平成三年法律三一号による改正前の刑法一五七条二項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては右改正後の刑法一五七条二項、罰金等臨時措置法二条に、判示第二の1ないし3の各被告人らの所為は、いずれも行為時においては右改正前の刑法二〇八条の二第一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては右改正後の刑法二〇八条の二第一項、罰金等臨時措置法二条に、判示第三の1ないし3の各被告人らの所為のうち、火炎びん使用の点は、いずれも刑法六〇条、火炎びんの使用等の処罰に関する法律二条一項に、公務執行妨害の点は、いずれも刑法六〇条、九五条一項に、原判決の別紙「受傷者一覧表」番号1ないし13記載の各被害者に傷害を負わせた点は、いずれも行為時においては刑法六〇条、右改正前の刑法二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては刑法六〇条、右改正後の刑法二〇四条、罰金等臨時措置法二条にそれぞれ該当するところ、被告人Bの判示第一及び各被告人の判示第二の1ないし3の罪について、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、各被告人の判示第三の1ないし3の所為中、公務執行妨害、火炎びんの使用と各被害者に対する傷害の点は、それぞれ一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、いずれも刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として刑及び犯情の最も重い原判決の別紙「受傷者一覧表」番号1の増岡友治に対する傷害罪について定めた懲役刑で各処断することとし、以上はそれぞれ同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、被告人久保貴浩については最も重く、その余の被告人らについては重い、判示第三の1ないし3の各増岡友治に対する傷害罪の刑に、いずれも同法四七条但書の制限内で法定の加重をし、その刑期の範囲内で、被告人Aを懲役二年四月に、被告人B、同C、同D、同E、同F、同Gをいずれも懲役二年六月に各処し、同法二一条により原審における未決勾留日数中いずれも五〇〇日を被告人らの右各刑に算入し、同法二五条一項により本裁判確定の日からいずれも五年間右各刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑訴法一八一条一項本文により、原審及び当審における訴訟費用中、別紙訴訟費用負担一覧表記載の各証人に支給した分は、同表記載のとおり各被告人の負担とすることにして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官新谷一信 裁判官荒木勝己 裁判官上田幹夫)

別紙訴訟費用負担一覧表<省略>

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